東京高等裁判所 平成8年(ネ)5786号 判決 1997年12月10日
控訴人
小出恒次
右訴訟代理人弁護士
塚田裕二
同
米川長平
同
加藤俊子
同
渕上玲子
同
松江頼篤
同
津田和彦
同
松江仁美
被控訴人
オリックス・クレジット株式会社
右代表者代表取締役
丸山博
右訴訟代理人弁護士
林彰久
同
池袋恒明
同
木村裕
同
山宮慎一郎
右訴訟復代理人弁護士
池田友子
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、第二審とも、被控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
主文と同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張
当事者の主張は、次のとおり訂正し、又は付加するほかは、原判決の「第二事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
一 原判決三頁一一行目の「原告が」を「控訴人が」と改める。
二 原判決四頁一行目の「ゴルフ会員権」から同三行目末尾までを「その造成するゴルフコース「グランマリヤ」(以下「本件ゴルフ場」という。)に係るゴルフクラブ「ゴルフ アンド カントリークラブ グランマリヤ(以下「本件ゴルフクラブ」という。)の個人正会員権(以下「本件ゴルフ会員権」という。)を購入する(以下「本件売買契約」という。)に当たり、次の内容の本件クレジット契約を締結した。」と、同四行目の「ゴルフ会員権」を「本件ゴルフ会員権」とそれぞれ改める。
三 原判決五頁八行目の「一三〇〇万円」の次に「(以下「本件代位弁済金」という。)」を加える。
四 原判決六頁一行目の「未払金」を「分割払金の残金」と、同三行目の「本件クレジット契約書」を「本件クレジット契約の契約書(以下「本件契約書」という。)」と同七行目の「された。このため、ゴルフ場の」を「されたため、本件ゴルフ場の建設は中止され、その」と、同一〇行目の「契約書」を「本件契約書」とそれぞれ改める。
五 原判決七頁一行目の「該当する。」を「該当するので、本件ゴルフ場の開場に至るまでの間、分割払金の残金の支払を停止する。
4 本件クレジット契約においては、購入者が本件契約に関する一切の費用を負担する旨が約定されており、控訴人は、右約定に基づいて、平成二年二月一三日、第一回目の分割払金一五万九三〇〇円を支払う際に、本件契約書に貼付すべき印紙代二〇〇円を合わせて支払ったにもかかわらず、被控訴人は、本件契約書に印紙を貼付していない。したがって、右印紙代二〇〇円は、本件請求に係る分割払金の残金から控除されるべきである。」
と、同三行目の「契約書」を「本件契約書」と、同四行目の「これには」を「これは、本件ゴルフクラブに対して本件ゴルフ場の優先的利用を要求することのできる権利を含むが」と、同七行目の「商品」を「本件契約書一〇条にいう商品」と、同行目の「ゴルフクラブ入会契約」を「本件ゴルフクラブへの入会契約(以下「本件ゴルフクラブ入会契約」という。)」と、同八行目の「取得したことである。」を、「取得することであり、控訴人と真里谷との間には既に本件ゴルフクラブ入会契約が成立し、控訴人は、本件ゴルフ場の優先的利用権等右契約上の地位を取得したのであるから、既に商品の引渡しを受けたというべきである。」と、同九行目の「商品の瑕疵」を「本件契約書一〇条にいう商品の瑕疵」と、同一〇行目の「契約書」を「本件ゴルフクラブ入会契約が成立した後に、真里谷が資金不足となったため、平成四年三月ころから本件ゴルフ場の建設工事が中断して本件ゴルフ場が完成しないためであるから、これは単に真里谷の控訴人に対する債務不履行にすぎず、本件契約書」とそれぞれ改める。
六 原判決八頁三行目の「本件ゴルフ会員権クレジット契約」を「本件クレジット契約」と改める。
第三 証拠
本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 当裁判所は、被控訴人の本件請求は理由がないので、棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正し、又は付加するほかは、原判決の「第三 判断」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
1 原判決八頁八行目の「購入したのは」を「購入した本件ゴルフ会員権は」と改め、同一〇行目の「契約書」の次に「である本件契約書」を加え、同一一行目の「契約書の」を「その」と、同行目の「その一〇条」から同九頁六行目までを「本件契約書一〇条には、「(1)購入者は、下記の事由が存するときは、その事由が解消されるまでの間、当該事由の存する商品について、支払を停止することができるものとします。」と定められ、右支払停止事由として、「①商品の引渡しがなされないこと、②商品に破損、汚損、故障、その他の瑕疵があること、③その他商品の販売について、販売会社に対して生じた事由があること」が掲げられ、また、「(2)会社は、購入者が(1)の支払の停止を行う旨を会社に申し出たときは、直ちに所定の手続をとるものとします。」と定められている。」とそれぞれ改める。
2 原判決九頁七行目の「本件ゴルフ会員権に係るゴルフ場」を「本件ゴルフ場」と、同九行目の「平成二年三月からのコースの」を「真里谷が会員募集に際して作成したパンフレット(乙第一〇号証)には、千葉県君津市折木沢地区に本件ゴルフ場「グランマリヤ」の建設に着手するとのゴルフ場の名称及び建設場所の記載とともに、本件ゴルフ場は、一八ホールズ、パー七二のコースで、設計者のピート・ダイは建築家ガウディの造形等の優れたアートを右一八ホールズの中に創ることを試みたので、密度の高い戦略性と大地と大空をも取り込んでしまうかのような芸術性を秘めたゴルフコースである等との本件ゴルフ場の設計方針やゴルフコースの概略及び主要ホール等の紹介、完成予定は平成四年度である等の記載があった。そして、本件ゴルフ場は、平成二年三月六日起工式を行い、」とそれぞれ改める。
3 原判決一〇頁二行目から同三行目にかけての「ザ・カントリークラブ・グレンモア」の次に「「(以下「グレンモア」という。)」を加え、同七行目の「真里谷カントリークラブ」を「真里谷カントリー倶楽部」と改める。
4 原判決一一頁五行目から同六行目にかけての「購入したのは、開場前の新設ゴルフ場」を「購入した本件ゴルフ会員権は、真里谷が平成四年度に完成するとして建設する本件ゴルフ場」と、同行目の「被告」から同八行目の「被告と」までを「そして、控訴人は、」と、同九行目の各「ゴルフ場」をいずれも「本件ゴルフ場」と、同一一行目の「ということができる。」を「ことにより、右契約上の地位、すなわち、本件ゴルフ会員権を取得することになるところ、」と、同行目から同一二頁一行目にかけての「ゴルフ場」から同二行目末尾までを「本件ゴルフクラブ入会契約が遅くとも平成二年三月ころまでに成立したものと認めることができる。」とそれぞれ改める。
5 原判決一二頁三行目から同一四頁三行目までを次のとおり改める。
「三 ところで、控訴人は、本件ゴルフ場の開場が著しく遅れていて、本件ゴルフ場を利用することができないことをもって、本件契約書一〇条(1)①にいう「商品の引渡しがない」場合又は同②にいう「商品の瑕疵がある」場合に当たると主張する。
しかしながら、本件クレジット契約における「商品」とは、本件ゴルフ会員権、すなわち、本件ゴルフクラブ入会契約に基づく契約上の地位であるところ、本件ゴルフクラブ入会契約が遅くとも平成二年三月ころまでに成立し、控訴人がその契約上の地位(本件ゴルフ会員権)を取得したと認められることは前記認定のとおりであるから、これにより、「商品の引渡し」は完了したというべきである。本件ゴルフ場の開場が著しく遅滞していてこれを利用することができないことは、「商品の引渡し」を否定する事情とはなり得ないものといわざるを得ない。また、本件契約書一〇条にいう「商品の瑕疵」とは、その規定の仕方からいって、商品の引渡し時に存した瑕疵を指し、その後に発生した後発的瑕疵はこれに含まれないものと解するのが相当であるところ、本件ゴルフ場の開場の著しい遅延は、商品の引渡し、すなわち、本件ゴルフクラブ入会契約締結(本件ゴルフクラブ会員権取得)後に生じた事由であるから、この点において、右にいう「瑕疵」に当たらないのみならず、本件ゴルフ場の開場の著しい遅延は、次に述べるように、本件売買契約の内容とされた平成四年度又はそれからそれほど遠くない時期に本件ゴルフ場を完成させるという債務の不履行の問題であり、瑕疵の問題でないというべきである。
したがって、控訴人の右主張は、採用することができない。
四 控訴人は、また、本件ゴルフ場の開場の著しい遅延は、本件契約書一〇条(1)③にいう「商品の販売について、販売会社に対して生じた事由」に当たると主張する。
この点につき、被控訴人は、本件ゴルフ場の開場の遅延は、「販売について生じた事由」ではなく、本件ゴルフ会員権販売後に真里谷側の事情に起因して生じた事情であると主張する。しかしながら、「その他商品の販売について、販売会社に対して生じた事由」を支払停止の事由と定めた本件契約書一〇条(1)③は、その規定の仕方からいうと、同条(1)①、②を受け、これを補完する形で設けられた定めであり、また、その文言も、右のように、①、②に準ずる事由を広く支払停止の事由とする表現となっており、これを商品販売の時に存在していた事由に限る趣旨はうかがえないから、右①、②が商品の販売の時に存在していた事由を支払停止の事由としているからといって、③の事由も商品販売の時に存在していた事由に限られると解することはできない。したがって、本件ゴルフ場の開場の遅延が本件ゴルフ会員権販売後に生じた事由であるからといって、そのことのみをもって本件ゴルフ場の開場の遅延が右③の支払停止の事由に当たらないということはできない。
そこで、更に進んで、本件ゴルフ場の開場の遅延が本件契約書一〇条(1)③に定める支払停止の事由に当たるかどうかについて検討するに、前記認定のとおり、本件ゴルフ会員権は、本件ゴルフ場の経営主体である真里谷が、これから造成に着手する本件ゴルフ場について、平成四年度の完成予定を掲げて、会員を募集し、売り出したものであるが、このように、ゴルフ場の経営主体が将来の一定時期における完成予定を掲げて造成中のゴルフ場のゴルフ会員権を売り出した場合は、ゴルフ会員権販売業者がゴルフ会員権の販売をする場合と異なり、ゴルフ会員権を売り出したゴルフ場の経営主体は、当該ゴルフ会員権を当該ゴルフ場が予定の時期又はそれからそれほど遠くない時期に完成してゴルフのプレイすることができるようになる内容のものとして売り出したものということができる。他方、ゴルフ会員権は、ゴルフ場及びその付帯施設を利用してゴルフのプレイをすることの権利を主要な内容とするものであり、ゴルフ会員権購入者のその購入の主たる目的も、多くの場合、また、客観的にみても、ゴルフ場及びその付帯施設を利用してゴルフのプレイをすることにあるとみるのが相当であるから、造成中のゴルフ場のゴルフ会員権購入者にとって、当該ゴルフ場がいつ開場して、プレイをすることができるようになるかは、重大な関心事であり、ゴルフ会員権販売に当たって示された完成予定時期又は遅くともそれからそれほど遠くない時期に当該ゴルフ場が完成するものとしてこれを購入するものということができる(なお、右のような造成中のゴルフ場のゴルフ会員権の購入者の中には、自らゴルフをプレイすることよりも、これを他に転売して利益を得ること、すなわち、投資を目的とするものの存在することを否定することはできないが、そのような者にとっても、当該ゴルフ場が予定どおり完成するかどうかは、当該ゴルフ会員権の価値に関わる問題であり、重大な関心事であることに変わりはなく、さきに述べたところは、右のような投資目的でゴルフ会員権を購入する者についても、そのまま妥当するものというべきである。)。右のような点から考えると、ゴルフ場の経営主体が将来の一定時期における完成予定を掲げて造成中のゴルフ場のゴルフ会員権の販売をする場合については、単にその購入者に当該ゴルフ会員権を取得させれば足りるのではなく、当該ゴルフ場をその予定の時期又はそれからそれほど遠くない時期に完成させ、当該ゴルフ会員権の購入者にこれを利用させることが当該ゴルフ会員権販売契約の内容になっているものと解するのが相当である。これを本件についてみると、前示のとおり、真里谷は、造成工事着手前の本件ゴルフ場が平成四年度完成予定であるとして、会員を募集し、控訴人に対して本件ゴルフ会員権を販売したのであるから、本件ゴルフ場が平成四年度又はそれからそれほど遠くない時期に完成し、控訴人が本件ゴルフ場を利用してゴルフのプレイをすることができるようになることは、本件売買契約の内容になっていたものと認めるのが相当である。したがって、真里谷が本件ゴルフ場を平成四年度又はそれからそれほど遠くない時期に完成して、これを控訴人の利用に供することは、本件売買契約の重要な要素であるというべきである。しかるに、さきに認定したところによれば、真里谷は、同年三月ころ資金不足から荒造成段階で本件ゴルフ場の工事を停止し、平成六年一二月には会社更生手続開始決定を受けるに至り、管財人は、これを完成させたいとの意欲を持ってはいるものの、その完成のめどは立っていない状況にあり、控訴人は、本件ゴルフ場の完成予定時期を既に四年以上経過してもまだこれを利用することができず、本件ゴルフ会員権購入の目的を達成することができない状態にある。このように本件売買契約の重要な要素が履行されないで四年以上を経過しているという状況にかんがみれば、真里谷は、既に本件売買契約について債務不履行の状態にあり、控訴人からいつ本件売買契約を解除されてもやむを得ない状況にあるということができ、このような事情は、本件契約書一〇条(1)③にいう「商品の販売について、販売会社に生じた事由」に該当するものと解するのが相当である。
そうすると、控訴人には本件契約書一〇条(1)③に定める支払停止の事由があり、控訴人は、被控訴人に対する分割払金の残金の支払を拒むことができるものというべきである。
五 以上検討したところによれば、控訴人の抗弁は理由があり、被控訴人の本件請求は理由がないことになるから、これを棄却すべきである。」
二 よって、当裁判所の右判断と異なる原判決は不当であるから、これを取り消すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官石井健吾 裁判官星野雅紀 裁判官関野杜滋子は、転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官石井健吾)